第17回:役割と肩書き

第5章 ナビゲーター――あなたを追い立てていた、もうひとりの声
(社会に出てから強化された“内なる監視者”)


社会に出ると、誰もが自然と“役割”を背負うことになります。
それは自分で選んだというより、気づけば身にまとっているものです。
・新入社員
・先輩、後輩
・中堅
・管理職
・親
・家族の中心
・組織を支える存在

これらはすべて、張りぼての外側に次々と貼られていく
「肩書きという紙」です。

社会に適応するためには、
張りぼてを大きくし、形を整え、壊れないよう補強していく必要があります。
それ自体は、悪いことではありません。

むしろこの時期は、多くの人にとって、
張りぼて(外側の自分)と
紙粘土(本当の自分)が
同時に、最もよく働く時期でもあります。

仕事の経験、成功と失敗、人との摩擦、責任の重み。
それらは本来、紙粘土を強く、しなやかに育てる材料にもなる。

ここまでは、誰にとっても自然な成長過程です。
しかし――ここから、少しずつ分岐が始まります。

分岐点は「どちらを優先させるか」
普通の人は、張りぼてと紙粘土のバランスを保ちながら成長していきます。
普通の人のナビゲーターは、こんなふうに考えます。

・「外側を整えるのも大事。でも内側もちゃんと育てないと」
・「失敗したけど、この経験は紙粘土の厚みになるね」
・「この肩書きにしては張りぼてはまだ薄いけど……中身は育ってきている」
・「多少のぞかれても、大丈夫なくらいにはなってきた」

そのため紙粘土は、
張りぼての修繕や拡張を進めながら、自分自身も同時に育つことができます。

結果として、張りぼてと紙粘土の距離は広がりにくい。
内部空間も過度に膨らまず、心のトーンは比較的、安定した明るさを保ったまま進んでいきます。

自信のない人は、ナビゲーターが“監視者”に変わる
一方で、自信のない人の場合。
社会に出ると、ナビゲーターは静かに性質を変え始めます。

それは突然ではありません。
最初は「ちゃんとしよう」という善意の延長です。

・「もっとちゃんとしなきゃ」
・「失敗したら終わりだ」
・「周りより劣るわけにはいかない」
・「この肩書きで恥をかくな」

これらは一見、あなたを守ろうとする言葉に見えます。
しかし実際には、すべて 紙粘土に「張りぼて業務」だけを命じる指示です。

紙粘土は必死に動きます。
・張りぼての補修
 穴を埋め、継ぎ目を隠し、裂け目をふさぐ
・張りぼての拡張
 新しい役割に合わせて、外側を大きくする
・張りぼての厚みづくり
 「中身が伴っているように」見せるため、表面を硬く整える

ここで重要なのは、紙粘土は サボっているわけでも、怠けているわけでもないという点です。
むしろ、言われたことを必死にこなしています。

ただし――
張りぼてが大きくなればなるほど、紙粘土には休む暇がなくなる。

本来なら「紙粘土自身の成長」に使われるはずだったエネルギーが、
すべて「張りぼての維持と拡張」に吸い取られていく。

これが、社会人以降に起こる最も見えにくく、最も影響の大きい問題です。

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